唯一無二だからこそ、本当の意味がある

職人は印章のことを愛着を込めて“ハンコ”とよんでいます。

「ハンコが急速に日本に広まったのは明治以降。太政官布告の中で、一般市民、国民はハンコを使えといって以来です。それまで一般市民は苗字もなかったからね。」

そんな伝統あるハンコの世界も、今や機械化が進んできていますが、 甲州手彫印章の作り手は、あくまで手掘りにこだわります。

「ハンコは唯一無二でこそ本当の意味があるんです。自分を証明するものなんですからね。機械に読みこまれている文字を使うやり方だと、誰が彫っても「山」は同じ「山」になっちゃう訳ですよ。でも手彫だと、同じ人が何回彫っても決して同じものはない訳ですよね。ハンコというのは2つと同じものがあっちゃいけないっていうのが当然の話だからね。」

同一性をつくりづらくするために、あの難しい篆書（てんしょ）が使われているのである。「あなたの財産全部をこれ一つが守っている」職人が一つ一つ手間をかけた唯一無二のハンコにはそんな重みがあります。