JTCW2021参加店舗のバイヤーが、全国の産地に足を運んだ様子を紹介する
“バイヤーズレポート”。
今回は置賜紬の産地、山形県へ銀座の呉服店「銀座 藤屋」のスタッフが訪れました。
米沢藩の織物「置賜紬」の工房や歴史を巡ることで改めて日本の歴史と米沢藩、そして山形の広大さと日本の美しい自然を感じる訪問となりました。
置賜紬 [山形]
銀座 藤屋
「置賜紬」と一言でいっても草木染紬の米沢、緯総絣(よこそうがすり)の長井、絣糸を板締(いたじめ)で作る白鷹と三つ子の織物で、それぞれ産地も離れています。短い時間の中で、この三つの産地を巡るのは大変でしたが、改めて置賜紬の成り立ちや米沢藩の広大さ、歴史と文化、自然の豊かさを感じることができました。
ええ。米沢藩の南から北までしっかり回らせていただきました(笑)。白鷹山の向こう側は別の藩になるのですが、なにかこう空気が違うような気がしました。三つの産地の織物はまったく違う顔をしているようですが、やっぱり三つ子なんですね。緻密な絣も、草木染の鮮やかさも、土地の風景から切り離せないように感じました。
長岡さんの工房では、絣糸の擦り込みや括りなど見せていただきました。手括りをして柄を作れるので、小ロット生産に強いというのもありますが、長岡さんご自身が、なんでも面白がって作られるような方で、技術力の高さと柔軟さが作品に表れているような気がします。
印象的だったのは作業場です。まるで鉄工所のようでした。他の産地の工房でも共通しているようですが、織機が老朽化し、メンテナンスをするがとても困難な状況と戦いながら織物を作っていらっしゃるんですね。数十年ものの機械が現役のために修理部品もなくて、予備の機械から部品だけ取れるようなことがあればラッキーですが、そう上手くいかないようです。
生産量、販売高を考えると、莫大な設備投資をするのも現実的ではないんですね。長岡さんのところでは、ご主人が自ら溶接までして凌いでいらっしゃるそうです。
後日、他の方に伺ったら「あの方は器用だから特別!」とおっしゃってましたが(笑)伝統工芸を守るということの大変さを改めて感じました。ただいいものを作ればいいわけではなく、それを作るための機械にも投資をしなければいけない…ただ、長岡さんに悲壮な感じはまったく無くて、織り手もしていらっしゃる長岡さんの奥様は「この人は凝り性でなんでもできちゃうのよ」と、とても楽しそうでした。
こんなに素敵で大らかな奥様がいらっしゃるから長岡さんは織物を作り続けられるんだなあ、と感じました。「変わったもの色々作ってるわよ」などと奥様が仰ってご主人が頭を掻く、といったとても素敵なご夫婦でした。お茶請けに奥様お手製のお漬物を振舞っていただいたのですが、庭で自家用の野菜やさくらんぼなどを栽培していらっしゃって、そのハウスも長岡さんが溶接したりしているそうなんです。
ええ、本当にそうなんです。都会にいては感じづらい人間味やあったかさをとても感じさせていただきました。長井から米沢への戻りの道中、ぐずついていた雨が上がって地平線から虹が出ていたんです。地平線から出る虹は東京では見られませんよね。本当に感動しました。頭の中にはずっと「Over the Rainbow」が流れていました。なんだか本当におとぎの国から戻るような心地でした。
産地の空気感をそのままお店で体感していただくためにはどうしたらいいか…と色々スタッフと考えて、パネルやプロジェクターを使ってお店の中に米沢の自然の風景や工房を映し出そうと考えています。品物だけじゃなく、その品物がどんな空気の中、どうやって作られたのか…といったストーリーを体感していただくことで、もっと、そのもの自体の良さやそこにかける人々の想いを感じていただけると思うんです。
私たちができることはほんの小さいことかもしれません。でもそれを続けること、一人でも多くの方たちに知っていただくことで、もしかしたら今日なくなってしまうものが明日まで残るかもしれない。そんな思いを持って、着物に関わらせていただいています。今日あることが奇跡、そんな風に思うと、なにもかもが愛おしくてとても貴重で素晴らしいものだと感じます。そんな思いを一人でも多くの方と共有できたらと思っています。